 |
僕が13年前に初めて東京から出て訪れた街が名古屋だった。成人してから関東を一歩も動かなかった理由は、現場仕事で働くのに忙しかったし、さして旅を楽しむタイプでもなかったからだ。それが40歳を過ぎてから、『自分のネタを観てもらう』ただその目的だけでどこの劇場にも飛び込むようになった。新幹線に乗る時、ホームで僕はスタッフに「これ名古屋に止まる?」と不安そうに聞いたのだそうだ。僕の旅の地図は、そこからようやく道を作ったのだ。
名古屋から近鉄の改札までの長い通路で、一度もう気が萎えている。初の三重県文化会館公演の時だ。賑やかそうな四日市で腰を浮かしてまだだと言われ、津のホームに降り立って、(うーんドイツ、カールスルーエの町…)と気を取り直した。12年間国内と同じように毎年自力で公演しているヨーロッパの街々では、どんな静かなところにも、夜8時にはどこからやってくるのだろうと驚く人の数が、手入れの行き届いたすばらしい劇場に湧き出るように集まるのだ。僕にとっての旅は、食べ物や観光物は何もいらない。『劇場』にこそ、その街のその人たちが在るからだ。
津に泊まった最初の朝、秋の陽に輝く海を見ながら丘の上の建物を目指した時、僕は、その昔お伊勢さまを想い歩を海から山に向けた人たちもこんな気持ちだったかな、と自分もこうして日常を一日一日思い返す『劇場』へと入っていった。

イッセー尾形
|
|